「ここに来れば何とかなる」場所を門前につくりたい

能登半島地震からの復興が続く輪島市門前町。被災地では住宅やインフラの復旧に加え、地域コミュニティの再生という大きな課題に直面しています。
今回お話を伺ったのは、総持寺通り協同組合コミュニティーマネージャーとして地域住民と行政、支援団体をつなぎながら、門前町の復興とまちづくりに取り組む宮下杏里さん。地域に寄り添いながら、新たな交流拠点づくりやコミュニティ形成に挑戦する思いを伺いました。また、宮下さんの取り組みを支えている独立行政法人中小企業基盤整備機構北陸本部中小企業復興機動チーム(以下「中小機構」)副チーム長宮本有也さんにもこれまでの取り組みや復興への思いを伺いました。
Q1.宮下さんご自身について教えてください。20代後半に門前町へ戻る経緯も教えてください。
私は門前町で生まれ育ち、高校卒業後は金沢や県外で働いていました。地元を離れたことで、あらためて門前の魅力や人とつながりの大切さを実感するようになりました。
この地域には歴史や文化、人との温かな関係性など、都市部にはない価値があります。一方で人口減少や高齢化が進み、地域を支える担い手不足も課題でした。
そうした中で、自分の経験を地域に生かしたいという思いが強くなり、20代後半でUターンしました。現在は禅の里交流館の管理運営や商店街活動を通じて、地域の活性化に取り組んでいます。

Q2.震災前から地域づくりに取り組まれていたそうですね。
禅の里交流館は、市の施設を商店街組合が運営する官民連携の施設です。行政、寺院、地域住民が連携しながら地域づくりを進める拠点として活動してきました。
2021年の總持寺開創700年に向けては、お土産開発や観光マップ制作、情報発信などにも取り組みました。コロナ禍により予定していた事業の一部は実現できませんでしたが、その過程で地域内のネットワークや協力体制が築かれたことは大きな財産になりました。
Q3.能登半島地震の発生直後、どのような状況だったのでしょうか。
発災直後は避難所運営の支援に携わりました。当時は被害状況の把握も難しく、「誰がどこにいるのか」「どのような支援が必要なのか」という情報が十分に共有されていない状況でした。
地域には多くの支援団体が入ってくださいましたが、被災地側にも支援を受け入れるための調整が必要です。私は地元の状況を理解している立場として、地域と外部支援者をつなぐ役割を担いました。復興には多様な主体の連携が不可欠であり、その橋渡し役の重要性をあらためて実感しました。
Q4.復興を進める中で、中小機構さんとはどのような関わりがあったのでしょうか。

震災後、多くの支援者が門前町を訪れてくださいましたが、中小機構の皆さんとは仮設店舗の整備の段階から継続的に関わっていただいています。
特に宮本さんには、制度や補助金に関する専門的な助言だけでなく、イベントの設営や地域行事の手伝いなど、現場にも深く入り込んでいただきました。
復興には専門知識が必要な場面が数多くありますが、地域の実情を理解しながら伴走してくれる存在は決して多くありません。中小機構の皆さんは、商店街や事業者一人ひとりの声に耳を傾けながら、長期的な視点で支援してくださっています。
地域に寄り添いながら専門性を発揮していただけることで、事業者も安心して相談できるようになり、復興に向けた議論や挑戦が進みやすくなったと感じています。
私たちにとって中小機構は、支援機関という枠を超え、地域の将来を一緒に考えるパートナーのような存在です。
Q5.ここで中小機構 宮本さんに伺います。中小機構さんの取り組みについて教えてください。

中小機構では、震災直後から事業者の皆さまの事業継続・事業再開を支援するため、相談窓口の設置や専門家派遣を実施してきました。補助金や融資の活用支援、事業再建計画の策定支援など、事業者ごとの課題に寄り添いながら伴走支援を行っています。
また、被災した事業者の早期の営業再開を後押しするため、仮設店舗や仮設工房の整備支援にも取り組んでいます。能登地域では44施設の整備を支援し、257事業者が活用しています。(2026年3月末時点)
販路開拓支援にも力を入れており、オンラインマッチングサイト「J-GoodTech」を活用した商談支援のほか、東京駅や京都駅での復興応援フェアを開催し、能登事業者の商品やサービスを全国へ発信しています。
さらに、北陸本部職員による独自の取り組みとして、若手事業者による「輪島朝市の特徴を活かした施設整備構想検討会」のサポートや和倉温泉のBCP策定支援、能登の食材を活用した「能登福幸べんとう」販売会など、地域の将来を見据えたプロジェクトに取り組んでいます。
輪島朝市の再構築や和倉温泉の防災力向上、能登の食材を活用した「能登福幸弁当」の開発など、地域の将来を見据えたプロジェクトにも取り組んでいます。
私たちが大切にしているのは、制度や資金の支援だけではなく、地域の皆さまと一緒に考え、一緒に行動することです。復興は長い道のりですが、地域の支援機関と連携し、地域の事業者に寄り添いながら、能登の未来づくりを支えていきたいと考えています。
Q6.宮下さんに伺います。復興において、地域コミュニティの存在をどのように感じていますか。
復興というと建物や道路などのハード面に目が向きがちですが、実際には人と人とのつながりがなければ地域は成り立ちません。
震災後、多くの住民が不安や孤立を抱える中で、顔を合わせて話ができる場所や相談できる相手の存在が大きな支えになりました。
地域コミュニティは災害時だけでなく、日常生活を支える基盤でもあります。だからこそ、復旧だけでなくコミュニティの再生にも力を入れる必要があると感じています。
Q7.住民の声から生まれた「ランドリーカフェ」について教えてください。

震災後に実施した住民ワークショップで、「コインランドリーが欲しい」という声が多く寄せられました。
仮設住宅では洗濯物を干す場所が限られ、大きな寝具なども洗いにくい課題があり、人が気軽に集まれる場所も不足していました。
そこで、コインランドリーにカフェを併設した「ランドリーカフェ」の整備を進めました。洗濯という日常生活に欠かせない機能に加え、カフェを併設することで、地域の方々や能登を訪れた方が気軽に立ち寄り、交流できる場となることを目指しています。

Q8.「ここに来れば何とかなる」場所づくりと、地域をつなぐ役割について教えてください。
地域には、高齢者の見守りや住まいの問題、日常生活の困りごとなど、さまざまな課題があります。一方で、支援したいと思ってくださる方々もたくさんいます。
私が大切にしているのは、その両者をつなぐことです。ランドリーカフェや禅の里交流館が、地域の人が気軽に集まり、相談し、必要な支援につながる入口になれればと思っています。
地域には地域のペースや文化があります。外部の支援者の皆さんと信頼関係を築きながら、「ここに来れば何とかなる」と思ってもらえる場所をつくりたいです。
Q9.若い世代、特に女性が地域を動かすことへの難しさと可能性は。
能登には人と人とのつながりを大切にする文化があり、その温かさに何度も支えられてきました。一方で、地域活動やまちづくりの現場では、これまで男性や年長者が中心となってきた経緯もあり、若い女性が前面に立って意見を述べたり、新しい取り組みを進めたりすることに対して、戸惑いや慎重な反応を受けることもありました。
私自身も35歳の女性として活動する中で、「本当にできるのか」「なぜそこまでやるのか」といった声をいただいたこともあります。しかし、それは決して悪意ではなく、地域を思うからこその心配や、これまでの価値観の延長線上にあるものだと感じています。
だからこそ大切なのは対立することではなく、丁寧に対話を重ねながら信頼関係を築くことだと思っています。実際に活動を続ける中で応援してくださる方も増え、世代を超えた協力も生まれています。
人口減少が進む中、地域の未来を支えるためには、女性や若者、移住者など多様な人材が活躍できる環境づくりが欠かせません。私自身も挑戦を続けることで、次の世代が一歩踏み出しやすくなるような地域になればと思います。
Q10.活動を続ける原動力は何ですか。

私が子どもの頃の門前町には、多くの商店や人の往来がありました。地域全体に活気があり、さまざまな世代が関わりながら暮らしていました。
時代の変化の中で地域を取り巻く環境は大きく変わりましたが、地域の魅力そのものが失われたわけではありません。
その価値を次の世代につなぎたいという思いが、活動を続ける大きな原動力です。そのためにも、地域コミュニティは欠かせません。能登は「人」そのものが魅力です。地域のみんながいるから頑張れるのだと思います。
Q11.これからの門前町をどのような地域にしていきたいですか。
私が目指しているのは、「ここで暮らしたい」「また戻ってきたい」と思える地域です。
人口減少や高齢化といった課題はありますが、歴史や文化、人とのつながりなど門前ならではの強みがあります。
復興を単に元へ戻す作業ではなく、未来に向けた地域づくりの機会として捉え、多様な人が関わりながら持続可能な地域社会を築いていきたいです。
Q12.北陸経済連合会に期待することはありますか。
能登では人口減少や人材流出に加え、若い世代や女性が挑戦しやすい環境づくりも重要な課題です。
地域だけでは解決が難しい課題も多いため、北経連のような広域的な経済団体には、企業や行政、地域をつなぐ役割を期待しています。
人材育成や意識改革、地域で活躍する人を応援する仕組みづくりなどを通じて、「人が戻り、人が育つ地域」づくりを一緒に進めていただければありがたいです。
Q13.能登を応援してくださる皆さまへメッセージをお願いします。
これまで、たくさんの支援をいただき、ありがとうございました。これから頑張っていこうと一歩踏み出せたのは皆さんのおかげと言っても過言ではありません。
震災から時間が経過した今も、地域では復興に向けた挑戦が続いています。
能登の商品を購入すること、観光で訪れること、地域の取り組みに関心を持ち続けていただくこと、その一つひとつが大きな支えになります。
私たちも地域の未来に向けて歩みを進めていきますので、これからも能登を応援していただければ幸いです。
【プロフィール】
宮下 杏里さん
輪島市門前町出身。県外での勤務を経てUターン。禅の里交流館の管理運営や総持寺通り協同組合の活動を通じて、地域住民・行政・支援団体をつなぐコミュニティマネージャーとして活躍。能登半島地震後は復興支援のコーディネートや交流拠点づくりに取り組み、地域コミュニティの再生を推進している。
宮本 有也さん
富山県高岡市出身。2001年4月に中小機構の前身組織である中小企業総合事業団に入構。2024年4月より、中小機構北陸本部に着任。中小企業復興機動チーム副チーム長として、能登復興に向き合う。業務以外でも能登に頻繁に出向き、地域の取り組みに参加。